翼のない天狗
「ええ。海は美しい、海中もとても美しい世界でございます。しかし、海は人を喰らいます。海には力があるのです。」
清青様、お解り下さいませ。
「冬降る雪もとても美しい、美しいけれど、雪は家を潰します」
「揺れる灯りも美しいけれど、炎は全てを焼き尽くします、清青様」
ゆっくりと清青は頭を擡げる。
「貴方はとても美しいのです。あなたの力は、その美しさ――」
清青の脳裏に、父天狗の言葉が蘇る。
『お前には力がある』
『私にはない力だ。他のどの天狗も持たぬ力、それをお前は持っておる』