翼のない天狗
何を言えば良いのだろうか。
氷魚の受けた扱いは、族長の娘という優遇であり、雌魚という冷遇であった。肉親は怪魚に喰われ、錯乱した義兄に満の夜に犯された。水の中を渡る兄の精液臭は他の雄魚を刺激し、幾つもの肉塊が氷魚の体を刺した。それ以来、満と朔の夜は恐ろしくて堪らない。逃げ出すことも何度となくあった。
氷魚は虚ろに微笑む。
「似ているでしょう、清青様と…」
「いや…そなたは…」
私の比ではない。
「境遇よりも…私は、私は何なのかがわからなく、悲しかったのです」
「氷魚殿…」
清青は思った。
私と、同じ。