翼のない天狗

 日の登らぬうちに、清青と氷魚は白の滝へ向かった。

 白の滝はドドドと変わらぬ音をたてて、止めどなく流れて行く。滝の裏、水路となる洞穴。氷魚は流れに脚を入れる。
「日が出る」
 山を越えて、日の光が滝の裏側まで、その矢を放つ。すう、と氷魚の脚はヒレへ戻った。
「清青様…」
 水に入り、氷魚は清青を見上げた。
「氷魚殿、私には力があると言ったな」
「はい」
 清青の目はとても穏やかであった。
「そなたの力は、存在ではないだろうか」
「私の…存在」
 存在。多くを惹き付けてしまうのもそのため。しかし、なくてはならない。私を救った。
 清青は大きく頷いた。
「また、話がしたい」
 透き通るような藤紫の瞳。
 氷魚は喜びに俯き、目頭の温かくなるのを感じた。
「はい」


  第一部 了
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