翼のない天狗
 返す言葉のない母に、紫青は頭を下げた。
「では、行って参ります」
 要件は知らされていないが、紫青は帝に召されている。
「ああ、」

 袍の裾を直しながら振り返る。
「母上、私の帰りを待たぬ方がよろしいでしょう」


 牛車の中に、何時入ったのか黒鳴がいた。
「何だ」
《嫌な予感がする》
「…私もだ」
《それでも参るのか》
「ああ」

 車は大内裏達智門に止められた。
 紫青はそこから官吏に導かれて内裏へ向かった。
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