翼のない天狗

 此処は何処か。九重の内情に疎い紫青には解らない。
 どこかの御簾の前で、腰を下ろし、頭を下げるよう、促される。

「帝。実原中納言が子息、近衛左少将、清青が到着しました」
「キヨハルにございます」

「うむ、」
 御簾の奥で帝が頷く。
「面を上げよ」

 言われ、紫青は体を起こした。

「ほう」
 帝は口の端を上げた。

「噂通りの顔だな。瞳の藤紫、故に紫青か。面白い」
 帝は側の者に言いつけ、人払いをした。

「さて、紫青」
 本題に。
「よく、山へ行くそうだな。行か」
 本当の事を言うべきか。否、人間としての都合を優先させるべきであろう。
「父母を残して仏道に入ることはできませんので、たまに」
< 69 / 224 >

この作品をシェア

pagetop