翼のない天狗
此処は何処か。九重の内情に疎い紫青には解らない。
どこかの御簾の前で、腰を下ろし、頭を下げるよう、促される。
「帝。実原中納言が子息、近衛左少将、清青が到着しました」
「キヨハルにございます」
「うむ、」
御簾の奥で帝が頷く。
「面を上げよ」
言われ、紫青は体を起こした。
「ほう」
帝は口の端を上げた。
「噂通りの顔だな。瞳の藤紫、故に紫青か。面白い」
帝は側の者に言いつけ、人払いをした。
「さて、紫青」
本題に。
「よく、山へ行くそうだな。行か」
本当の事を言うべきか。否、人間としての都合を優先させるべきであろう。
「父母を残して仏道に入ることはできませんので、たまに」