翼のない天狗

白天狗

「不思議な躯だ……」
 耳元で囁かれる低い声。

「これ程に美しい躯が山を歩くのか」
 紫青の体を愛おしむ指。
「帝……」

 互いに裸体に近い恰好をしている。当今の帝が好事家であることは知っていたが、これは則ち。
「私を……慰み者に」
 先からの嫌な感覚は、このことへの警告であったのだろう。帝のその薄い衣の下、均整のとれた体の、股にあるのはやはり、男の徴である。それは紫青のからだにも在る物。

 男に体を触られるのは初めてではない。

 軟弱で、弱気で、けれども美しかった幼い紫青を、紫青のからだをちろちろと弄んだ男は幾人かいた。初冠の儀の前日、母に連れられて、山の廃寺、冥王寺に行って紫青は変わった。


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