翼のない天狗
 そう、私はどちらともつかない身なのだ。氷魚殿は、私には美しさという力があると言った。しかし。無論、氷魚殿を誹る気は毛頭無い。しかし、私の力とやらは、私のために働かぬのではないか。無力だ。帝と雖も人間。天狗ならば、父上のような天狗ならば。

「っ…くっ…」

 人間の紫青の喉の奥から漏れる声。

「堪えずとも良い…鳴け、紫青」
 その声は、優位に立つ者のそれである。
 一際きつく、紫青を握る。






「あああああああああ」
 
 




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