翼のない天狗
空気が、変わった。
紫青はそこにいる。
そこに弱々しく横たわっているのは紫青だ。それは違いないのだが、しかし、紫青ではない。何だ、この感触は。紫青はそこにいるのに、そこにいるのは紫青ではない。
ゆっくりと、紫青が目を開ける。
長い金色の睫。その中の、曙の空の色をした瞳。
紫青ではない。
それは起き上がる。
この感触、ああ、似たものを私は知っている。帝は思った。
とても崇高なものを前にした時、そして、とても悍しいものを前にした時の感覚だ。言うなれば、畏怖。