翼のない天狗
「私を玩ぶとは」
それは帝の顎を掴む。砕けようかという力で。
「…何をする…し…せい…」
「違う」
それは否定した。
「私は紫青ではない」
「キヨハル。実原近衛左少将」
「否。私の名は」
それは美しく微笑む。
「清青。白天狗、冥王の清青」
「し…らてん…ぐ…?」
「そう。紅い者達とは一線を画するのだ」
帝、帝、どこに御座しますか、と部屋の外が騒がしくなる。
ここはごく一部の者しか知らぬ部屋。
「…カッ」
清青は、帝の顎を突き放した。
衣を軽く纏い、立ち去る。
「さらば」
「帝、帝いかがいたしました!?」
「陰陽寮の者が、帝に大事があると」
「誰か、内薬司の者を!」