翼のない天狗
 強い、強い風が都を吹き荒れる。


 覚醒を果たした清青は、高い仏塔の上から都を見下ろしていた。
 整然と区画されたその街並み。通る人びとの、風と埃を邪険に思う顔。

《清青》
「黒鳴」
 風に体を圧されながらも、黒鳴は清青にゆっくりと近づく。

《白天狗、か》
「黒鳴、何故だ」

 清青の声が僅かにふるえる。
 内裏に居た時とはまた別の人格があるように。

「何故、私は拒まれている」
《……?》
「都には、いられない。しかし、私は山にいることができるのか?」


「白天狗、冥王の清青坊」
 大きな波のような声が、風に乗って清青を呼んだ。
「……父様」
《清影殿》
「来い」
 山へ、来い。お前は都に居てはならぬ。早く、山へ来い。
《……行くぞ、清青》
「ああ」
 動けばまた、風が荒れる。


 
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