翼のない天狗


 
 その白天狗が覚醒した瞬間、水が揺れた。
 流澪の腕の中にあった氷魚は、抗う力を抜いた。
「氷魚……?」
 唐突に泣き出した氷魚を、流澪はどうすることもできない。
「いかがされた」
 氷魚は答えず、流澪の胸で泣く。

 氷魚は悟った。
 清青が、清青でなくなってしまったことを。



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