翼のない天狗
夜叉
弥平と太助は道無き道を、つまり山に入って、風の吹いてくる方へただ、奥へ奥へと進んでいた。二人とも言葉を交わすことなく、目を血走らせて進んでいた。
「人間だ」
気付いたのは深山だった。
《馬鹿じゃな。こんな荒れた天気に山へ入るとは》
「……あの二人は」
《実原の屋敷の者じゃ》
深山と黒鳴は木の陰から二人を見下ろす。無論、深山の姿は人間には見えない。そういう術が掛かっている。
「清青を追って来たのだろうか」
ふと、黒鳴は首を止めた。
《風向きが変わった》
「……本当だ。清青が動いた」
《行くぞ》