翼のない天狗

 清青はふらふらと動いた。
 視点は定まらず、髪は乱れ、顔は青白い。

 少しの力が大きな破壊を生む。全てが自分を拒んでいる。
 そんな中で自分を山の奥に幽閉した、父天狗や黒鳴、深山には感謝さえしている。自分が生み出してしまう多くの犠牲を、極力無くすために。
 意識を遠く飛ばせば、数々の情報を得られる。小瑠璃が、野兎が、揚羽が、多くの生きとし生ける者が己の所為で生じた風で害を被っていると。申し訳ない、とは思う。しかし、どうすることもできない。自分が動けば、更なる害を生むのだ。

 それでも氷魚に会いたい、と思った。
 氷魚の顔が、錯乱する頭の中で浮かんでは消える。
「氷魚殿……」
 封は簡単に解けた。足は、白の滝を目指している。
 
  
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