翼のない天狗
「弥平、」
太助は弥平の袖を引いた。
近くで水の流れる音がしている。
「滝?」
「らしいな。風はこっちから吹いている」
ドドドドドド
白の滝に着いた清青は、一度その奥へ入った。水路に氷魚はいない。満月までまだ日がある。
そして出る。
もしやと思ったが、試す。
水の上に、静かに足を乗せた。
……立てる。水の上に立てる。
水でさえ己を拒み、そのために自分の体を持ち上げているのだ。
滝壺を歩き、垂水の真下へ行く。
真っ直ぐに落ちる水も、傘があるかのように清青を避ける。