翼のない天狗
「おい、あれを見ろ、太助」
「……化け物だ」
岩陰に隠れながら、弥平と太助は清青を見た。
金色の髪を振り乱し、水の上に立っている。あれが天狗だと言うのか。あれは、
「夜叉だ……」
夜叉も天狗も変わらぬ。あれが紫青をさらった者に違いない。
二人は頷きあい、弓をつがえる。矢尻にはたっぷりと毒を塗った。
キリキリキリ……
清青が二人の方を向くのと、二人が「化け物」に向かって矢を放ったのはほぼ同時であった。