翼のない天狗
 東雲の合間から朝の日の光が地へ射す。清青はその矢を一身に受け、大きく伸びをした。
 藤色の瞳に光が入る。眩しさに瞼を閉じる一瞬、その瞳は黄味を帯びて緑色を映す。
 身支度を整えて、烏の面をつけた。

「起きているか、清青」
「おう」

 清青坊と深山坊は山の表へ出ると、西にある豊備へ向かう。
 豊備にある大きな瀧には人魚が住まうと言われている。人魚とは上半身がヒトで下半身が魚で美しい女なのだとか。

「今日こそ逢うぞ、豊備の人魚に」

 いきり立つ深山を尻目に、清青は思う。
 そんな生き物はいないのではないか。この友は何度付き合ってやればわかるのか。何度行っても見ることができないのだから、いないに決まっている。今日見ることができなかったら、もう二度と来るまい。

 烏天狗の深山は背中に生えた翼で飛び、清青は山の上を跳んでいる。

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