翼のない天狗
六、咎人と囚人
血のにおい
「血のにおい……」
氷魚は呟いた。このにおいは。
《何処へ行くのです、氷魚様》
《氷魚様》
魚たちの声を背中に、氷魚はある一点を目指して真っ直ぐに泳いで行く。
「氷魚」
流澪が氷魚を呼び止める。その声に耳を貸さず、氷魚はやはり泳ぎ続ける。
「氷魚、何処へ行く」
答えない。ただ、
「行かせて下さい」とだけ。
「私も行こう」
流澪もこの血液臭には気付いているが、誰の物かは知らない。
ある地点を過ぎると、それは急激に濃くなる。気分の悪くなるほどに。
「氷魚、あれは……」
口を押さえながら、流澪は尋ねる。隣で氷魚の体が震えている。