キミのための声
Chapter 1
キミとの距離
閉じた目に、
うっすらと眩しい光を受ける。
重い瞼を開こうとしたのと
ほぼ同時に、
聞き慣れた甲高い声が
頭上から降ってくる。
「ちょっと愛梨沙?
6組、行かなくていいの?」
「……んー…?」
まだぼーっとしている頭を
目覚めさせるように、
彼女は続ける。
「葵くんのとこ行かないのっ?」
「……へっ?」
机に突っ伏していた体を
漫画のようにガバッと起こし
教室を見渡す。
皆それぞれいつものグループに分かれ、
お弁当を食べ始めていた。
「やっばい!」
アホみたいな声を出しながら
リュックから2つのお弁当箱を
取り出して立ち上がる。
「慌てすぎて
すっ転ばないよーにねぇ?」
そう言った彼女の顔は
決して心配の表情ではなく、
馬鹿にしたように口角を
上げている。
「もお、由香のばかっ」
ぷいっと子供のように顔を背け
子供のようにバタバタと
教室を飛び出す。
長い廊下を必死に走りながら、
一抹の不安を抱える。
―――葵くん、待ってて
くれてるかなっ…?