キミのための声
綺麗な髪をなびかせて、
ただ景色を見つめる葵くん。
その瞳は、どこか哀しげだった。
あたしはそんな姿に
気付いたら見とれていて
視線を感じたのか、葵くんは
チラッとこちらを見る。
「……何」
「あっ、いや、あのっ…
…よく、ここに来るのかなぁって……」
見とれてました、
なんて言えないから
適当に理由を付ける。
葵くんは再び景色を見て、
「……まぁ。こっから見る
景色、好きだから」
トクン、と心臓が震える。
あたしと同じだ。
ただそれだけで、
葵くんとの距離が近くなった
ような気がした。
「綺麗だよね……」
立ち上がって、葵くんに
並んで景色を見る。
葵くんは何も言わずに、
景色を見つめていた。
春の爽やかな風が、
2人を包む。
あたし達以外
誰もいないこの空間で
グラウンドで遊んでいる
人達の声だけが聞こえる。
……やっぱり
今しか、ない。
「―――あのっ!!」
いきなり大きな声を出したものだから、
葵くんはビクッと肩を震わせて
何事かという表情であたしを見る。
あたしは葵くんに向き合って、
ぎゅっと拳を握る。
「あのっ…あたし…!」
言うしかない
言わなきゃ
きっと後悔する
そんなの、嫌……!
「あ、あたしっ……」
緊張からか、
フラれる怖さからか、
不意に涙が出そうになるのを
こらえて顔をあげる。
葵くんは、ただあたしを
見下ろしている。
―――その瞳は、どこか切なげで。
まるで、あたしが今から
何を言おうとしているか
分かっているかのような。
それでどうしてそんなに
切なげな瞳を向けるのかは
今のあたしには全然
分からないけれど
とにかく
伝えなきゃ―――!