キミのための声
「あたしっ、
葵くんのことがっ―――……!」
す
……って出かけた瞬間。
葵くんが「あっ!」みたいな
驚きの表情をして
それを確認できたのも束の間
――――ゴンッ
頭に鈍い衝撃が走った。
あまりの痛みと驚きに
「いでッ!!」
とんでもなくだらしなく情けない、
そんな声を発してその場に崩れ落ちた。
―――なっ、なに!?
一体なにが起こったの!?
状況が全く理解出来ずに、
その『何か』が当たって
じんじんと痛みを訴える
部分を手で覆う。
唖然とするあたしに、
「アンタ…大丈夫かよ」
ほんとに心配してるのかって
くらいの落ち着いた声。
「あ、大丈夫…だけど…」
一体何が当たったの…!?
自分の周りに目をやると、
すぐ隣に野球ボールが転がっていた。
もしかして……これ?
ボールを拾ってみると、
「あっちから、飛んできた」
あたしが座り込む奥の方を指差して、
当然のように言う。
あっちって…グラウンド?
「な、何でこんな高い所までっ……」
どんだけ飛ばしてんの!?
グラウンドに向かって
叫びたくなるところを
なんとか我慢。
「………っ……」
前方から聞こえる、
喉の奥でくぐもったような声。
見上げると、葵くんが
口を抑えて下を向いていた。
「……あ、葵くん…?」
これは
まさか。
「…くっ………、わりっ…」
謝っておきながら、肩を震わせて
明らかに笑っている。
「ち、ちょっと、もう!
笑わないでよおっ」
立ち上がって抗議するも、
我慢出来ない様子。
目を閉じて口を隠しているから、
笑顔とは言えないけど
葵くんが笑ってるのは確かだ。
全然、笑わない人だと
思ってたから……