キミのための声
「………顔、やばいけど。」
「―――へっ?」
現実に戻るなり、
目の前であたしを
不気味そうに見下ろす
葵くんの姿が目に入る。
や、やだ!
あたし一体どんな妄想
しちゃってるの!?
恥ずかしいーっ!!
「あっ、変な顔見せちゃって
ごめん!気にしないで、今のは――……」
「で、なに」
あたしの見苦しい言い訳が
始まる前に止めた葵くん。
…うん、ある意味
助かりました。
「あ、うん、あのね…
今日、その…寝坊して
お弁当忘れちゃって……」
「ふぅん」
…ふ、ふぅんって!
……まぁ、作ってこなくていい
って言われてたし……。
「あ、だから…ごめんね?」
顔色をうかがうようにして謝ると、
葵くんはあたしの頭よりも
上の方の宙を見ながら、
「別にいーから。
てか作んなくていいって
言ってるだろ」
ずきん。
針が、刺さったみたいに痛んだ。
「うん……そうだよね」
「用それだけ?」
「うん……」
「そ。じゃあな」
何事も無かったように
スッとあたしに背を向け、
教室へ戻っていく。
……やっぱり
辛いよ。
葵くんも分かってるんでしょ?
あたしがこんなに
お弁当作りたがる理由。
分かってるに決まってる。
「……………っ」
―――だめだ
なんか久しぶりに涙出そう。
早く教室に戻ればいいのに、
足が棒になったみたいに
動かない。
だって葵くん
そうやって言うってことはさ
あたしと一緒に居たくない
ってことじゃないの――……?
「…あれ、葵の彼女
どーしたの?」
前方から聞こえる声。
「ほんとだ、
突っ立ったままじゃん。」
「あ、もしかしてお前
また何かひでぇこと
言ったんじゃねーの!?」
話し声から、恐らく
いつものメンバーが
葵くんに言っているんだろう。
……やだ
恥ずかしい
あたし何でいつもこんなに
「……おい」
今度は、すぐ前から聞こえた
あたしの大好きな声。
ビクッと体が震えたのが
自分でも分かって
余計に恥ずかしくなる。