キミのための声







あたしは顔を上げることも出来ずに、
ギュッとスカートを握りしめる。




……今、顔上げたら



不細工な泣き顔
見られちゃうし。




あたしは葵くんを
無視して身を翻す。






「―――おいって」





グ、と手首を掴まれ、
足が進まなくなる。





「……何、お前…泣いてんの?」





『意味分かんねぇ』
みたいな口調に




唇を噛み締める。







「―――知らないっ!」






気が付いたら




そんな自己中な言葉を
叫ぶように言って、
葵くんの手を振り払っていた。




そのまま逃げるように走って
下へ降りていく。






―――もう嫌





嫌だよ





葵くん……







分からない




もう





分かりたくもない……






教室に戻ることも出来ずに、
トイレに向かおうと角を曲がった。






―――瞬間、
目の前が真っ暗になり、
ドサッと後ろに尻餅をついた。





「いっ…た…」




なに……?







「―――わり、よそ見してた」





顔を上げるのとほぼ同時に、
聞き覚えのない男の声。




とりあえず差し出された手に
つかまって立ち上がり、
相手の顔を見る。






「……えっ?」





「ん?何?」





柔らかく持ち上げられた口角。





あたしは呆然と彼を見つめる。








―――葵…くん……?







………違う




そんなわけない。





だいたい葵くんはこんな
金髪していない。




ピアスもこんなに多くない。





……だけど





顔が






そっくり―――……








「……葵じゃねぇよ」






混乱する中で、
低く呟かれた言葉。




驚いたあたしは
更に呆然とする。




彼はフッと鼻で笑って、
あたしとの距離を一歩縮める。





「中山 愛梨沙だよな?」




「………なんで、
知ってるんですか…」




「俺は伊藤 伸也。」




あたしの質問を
一切無視して自分を名乗る。




彼はあたしをその深い瞳で捕らえ、
ニヤリと微笑んだ。






「アンタも大変だな、
あんな彼氏持って」





なに




なんなの……?







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