キミのための声
―――ガチャン…
屋上へ出る重い扉が開き、
眩しい光が目に入る。
中央あたりにドサッと
胡座をかく葵くんの
すぐ隣に腰を下ろし、
黒いお弁当箱を差し出す。
「はいっ!」
「…どーも。」
パカッと蓋を開ける葵くんを
凝視し、反応をうかがう。
ご飯がウサギの形になっていて、
海苔で目や鼻やヒゲなどを
作ってある。
…まぁ、単純っちゃ
単純なんだけれど。
何も言わずに
箸をつけようとする葵くんに
あたしは慌てて、
「ど、どうっ!?
ウサちゃん可愛いっ!?」
今まさにそのウサちゃんに
箸が刺さろうとしていた所で、
ピタッと箸が止まった。
葵くんはじっと
ウサちゃんを見つめ、
「……まぁ」
それだけ言って、食べ始めた。
ま、まぁ…
『別に』って言われる
よりは全然いいよねっ!
「美味しいっ?」
「ん」
もぐもぐしながら
小さく頷く葵くんに、
思わず顔がニヤける。
あたしも自分のぶんを
食べようとお弁当を開けると、
「…何回も言うけど」
「えっ?」
隣から、冷めたような低い声。
「別に、わざわざ
作ってこなくてもいい」
その瞳は決して
あたしを見ない。
何を言う時も葵くんは
あんまりあたしを見ないんだ。
「…いいのっ!
あたしが作りたくて
作ってるんだから♪」
笑顔で言うも
もしかして
迷惑…なのかな。
だけどだけど、
「迷惑?」だなんて
怖くて聞けない。
葵くんはそれ以上何も言わずに
再び食事を再開した。