キミのための声
「で、愛梨沙、今日も
滝澤くんは相変わらず?」
由香の後ろで「なかりさの
何が気に入らないんだ?」
とかブツブツ言っている陽を無視して、
由香が気を取り直すように
尋ねてくる。
あたしはもう一度席に座り、
「相変わらずどころか、
お弁当作ってこなくていい
って言われちゃったよ」
はぁ、と再び溜め息をつくと、
由香が眉間にシワを寄せて
うーん、と唸る。
「それは、愛梨沙が毎朝
大変だからって気を遣ってる
とかじゃなくって?」
「葵くんがそんな心優しい
人だと思うー…?」
「……だよね。」
観念したように
眉を下げる由香。
あたしは机に顎を乗せて、
視線を宙にさまよわせる。
…葵くんが、悪い人なわけじゃない。
ただ、ものすごくクールなの。
冷たい…って言ったら
なんだか悪く聞こえるけど。
学校では、女の子達から
王子様扱いだし、
ファンが出来るほどで。
友達も多くて、
男の子にも人気な葵くん。
あたしにはあんなにクールなのに、
友達に対してはやっぱり
もう少し優しいのかな。
付き合いがよくなきゃ
人気者にはなれないもんね…
……じゃあ、どうして
あたしには冷たいの?
それってやっぱり………
「…好かれて
ないのかなぁ、あたし」
ぽそりと出た言葉は、
教室に飛び交う声たちに
すぐに消された。