コイビト未満



不思議そうな顔をする兄ちゃん


身に覚えはなさそうで




「俺もよくわかんねえんだよ

上着を返してもらったら突然泣き始めて

あと春から海外に行くってことを伝えたら足早に帰って言ったんだ」






その言葉に
嫌な予感がした




菜成の、涙の訳




「なあ、まさかさ
俺も一緒に行くとか言ったんじゃないよな?」


「え?あぁ…菜成ちゃんが聞いて来たから
言ったよ。この部屋を引き払って葵も一緒に行くって」

「ふざけんなよ!!
俺は日本に残るって、そのまま附属の大学に進学するって言っただろ!!勝手なこと言ってんじゃねえよ!!」




思わず声を張り上げた



菜成の涙のワケ





ずっと前から決まっていた



海外で働くことを希望していた兄ちゃんと
なかなか日本に帰って来られない父と母


だったらみんなで移り住もうって




最初はそんなことどうでもよかった



大学に行きたいわけでもなかったし


この場所に執着もなかった




でも、菜成と出会ってから





俺の生活は全てが菜成中心




菜成がいない生活なんて考えられなかった




だからその瞬間


俺の頭から海外へ行くという選択肢は消えた




兄ちゃんにもそう伝えた




それなのに…


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