夢ノ夢子のズルい罠
「では夢子様、私はこれで――」
「御苦労様、カズヤ君っ――」
夢子がはにかむと、丁寧に鞄を渡し、紳士的にカズヤ君は去ってゆく――。
すっかり「定番化」した風景を咎める者はもう、いなくなった――。
放課後にまで、一連の風景を投射する事を夢子も求めてはいない――。
その案配が、夢子の「信者」を増やしてゆく――。
1年―A組――。
「夢っち、おはよう――」
「夢子ちゃん、おっは――」
「おはよう――」
クラスメイトの女子と挨拶を交わす夢子――。
女子受けする性格をも装備し、羨む佇まいを披露する夢子が、クラス内でハブられるなんて事はないのである――。
夢子の罠は、学園中に張り巡らされているのだ――。
「ちょっと――」
自分の席に座った夢子が、後ろの席で一心不乱に何かを描いている男子生徒に、やや苛立ちが含まれた感情をぶつける――。
「――――」
「ちょっとコウイチっ、聞いてるのっ――」
「んあぁ、夢子か――」
「夢子か――じゃないわよっ、何で起こしてくれなかったのっ、んもぅまったくぅ――」