キミとの距離は1センチ
あと1センチのスピカ





「……いせ、」



ラグにおさえつけられた手首が痛い。

心がおいてけぼりのまま進んでいく行為の中、彼を呼んだ声は思った以上に弱々しく響いた。

わたしの胸に埋めていた顔を上げて、伊瀬が嘲笑する。



「は、……こうしてると、身長の違いなんてたいした問題じゃないな」

「……ッ、」



瞬きをした拍子に、また両目から、溜まっていたしずくがこぼれた。


──なんで。どうして。

わたしたちは、職場の同期だ。それ以上でも、それ以下でもない。

こんなの、違うのに。


戸惑いと、悲しみ。そして与えられる快楽のせいでぽろぽろと涙をこぼすわたしを見下ろし、伊瀬が困ったように首をかしげた。



「……泣くな、佐久真」



そう言って何かを堪えるように眉を寄せて、わたしのひたいにくちびるを落とす。

泣かせているのは、自分のくせに。どうして、そんなことを言うんだろう。


ねぇ、伊瀬。わたしはあんたのこと、大切な同期だと、思ってたよ。

あんたは、違った?

伊瀬にとってわたしは、自分の欲を満たすために軽々しく抱けるような、そんな女だった?

同期として過ごした数年間は、そんなに薄っぺらいものだったの?


深くキスをされる。掴まれた両手は解放されて、代わりにひざの裏を持たれる。

熱っぽい響きを持った声に彼の本気を感じて、わたしはきつく目をとじた。
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