キミとの距離は1センチ
セットのサラダを完食し、都が何か考えるような素振りをしてから言う。



「……きっと伊瀬くんも、いろいろ思うところがあんのよ。しばらくはそっとしといてあげたら?」

「えぇ?」



お茶碗のごはんをひと口分すくい上げながら、思わず不満げな声が漏れた。

だってそれはつまり、『何も余計なことはするな』ってことなんでしょう?

今の不自然な状況を、不自然とわかっていてそれでもこのまま放っておけって?



「仕事の話はするんでしょう? なら別に支障はないじゃない」

「……でも……」

「『でも』、なに?」



都のくるんと上向いたまつげがふちどる、そのふたつの瞳がしっかりわたしを捉える。

わたしは箸を置いて、お茶が入った紙コップに手を伸ばした。



「……なにか悩みとかがあるなら、聞いてあげたいんだけどな」



何気なくつぶやいた、その言葉。

だけどそれに、都は無言のまま、ちょっとこちらが驚くくらいの反応を見せた。
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