キミとの距離は1センチ
株式会社ブルーバード。

日本に住んでいれば必ず耳にしたことはある、大手の飲料品メーカーだ。

社名の由来は、創設者の鳥海 青次が自らの名前からとったもので。しあわせを運ぶという『青い鳥』にもあやかり、うちの商品を手にした人にしあわせを、という願いも込められているらしい。


入社式で社長が語った、その話と。

それから派遣やパートも含めた社員全員が持っている、羽ばたく鳥がモチーフの社員バッジを、なかなかわたしは気に入っている。

まあ、毎日スーツを着ている男性社員はともかく、制服がない女性社員は私服にもつけにくくて、年に数回総会なんかで身につけるくらいなんだけど。


わたしは入社6年目。最初の3年間は地方の営業所に勤務して、それから本社勤務になった。

さらにわたしはこのマーケティング部へは、今年の4月に量販営業部から異動してきたばかり。

そんなわけで同期といえども、この部署に3年いる伊瀬と比べたら、ようやく2ヶ月目のわたしなんてまだまだひよっこだ。



「伊瀬、ちょっといいか?」

「はい」



ナイスミドルと噂高い大谷部長に呼ばれ、伊瀬が席を立っていく。

こうして上司たちからよくお声がかかるのは、彼がまだ二十代とはいえ、優秀な人材だという事実があるからで。

比べようもない差。でも、そこに落胆なんてしてられない。

わたしはわたし。伊瀬は伊瀬なんだから。毎日なんとか、自分のやれることに全力で取り組んで。

そうしてコツコツ、経験を積み重ねていこうと、わたしは四苦八苦する毎日を送っていた。
< 11 / 243 >

この作品をシェア

pagetop