キミとの距離は1センチ
……なによ、なによなによなによ。

そんなにわたしと、関わりたくないのか!



「……伊瀬」

「………」

「伊瀬、こっち向いてよ」



それでも伊瀬は、視線を斜め下に落としてだんまりだ。

がしっと、わたしはその頭を両手でわし掴んだ。



「は……っ」

「こっち向けって、……言ってんでしょおおおおお!!?」

「いだだだだだだだ!!」



力の限りぐいぐい引っぱって自分の方へ向かせようとするも、伊瀬は困惑しつつしっかり抵抗してされるがままにはならない。

だけどもあんまり痛そうにうめくので、わたしはパッと、両手を放してやった。



「っおま、いきなり何する……っ、」



自分の頭を抑えながら抗議の声をあげかけた伊瀬のせりふが、ピタリと途切れる。

たぶんそれは、わたしがらしくもなく……下くちびるを噛みしめて、うつむいていたからかもしれない。



「~~ッ、」



伊瀬が、不意を突かれたような、もしくは何か心の中で葛藤しているような、そんな微妙な表情をする。

だけどもそれは、一瞬のこと。ふう、と小さく、ため息を吐いた。
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