キミとの距離は1センチ
◇ ◇ ◇
「よい、しょっと」
両手で抱えていたダンボールを一旦廊下に置いて、目の前のドアノブを回す。
そしてそのまま、ドアが閉まらないように右足のひざあたりで押さえておいて。再びダンボールを持ち上げると、腰でドアを押し開けるようにして室内に入った。
ちょっぴり埃くさい物品庫は、何年も前から置いてある会議資料や販促グッズなどで雑然としている。
まあ最近は会議もほとんどタブレット端末を使うから、プレゼンに使うフリップなんかの類いはあまりなくなったけど。
両手がふさがっているけど、照明スイッチの心配はしなくても済んだ。
わたしがこの部屋に来たとき、すでに照明をつけた先客がいたからだ。
「……佐久真さ、いい歳した女だろ。もう少し立ち振る舞い方考えろよ」
「ああもううるさいなー、あんたは小姑か」
「………」
ものすごく呆れた表情でわたしが物品庫に入って来るまでの動向を見ていた伊瀬が、くちびるをとがらせるわたしの言葉を聞いてさらにため息をつく。
手にしていたいつものかわからない販促用ポケットティッシュを棚に戻して、スタスタとこちらに歩いて来た。