キミとの距離は1センチ
伊瀬もまた、わたしと同じように部屋着に着替えていた。

Tシャツと、スウェット素材のボーダーズボン。いつも見ているのはワイシャツにスーツだから、なんだか不思議な感じだ。



「……で。振られたって、なんだよ。おまえらあんなに、仲良さそうだったろ」



体育座りでコーヒーをちびちび飲んでいたら、伊瀬がここで、本題を切り出してきた。

少し迷ってから、わたしはマグカップをテーブルの上に置く。



「えっと……」



どうしよう。わたしと宇野さんが別れた理由を、全部話すわけには、いかないよね。

だってきっと、“わたしだから”宇野さんは、あそこまで本当の話をしてくれたのだ。そんなあの人を、裏切るわけにはいかない。


伊瀬は真剣な表情で、わたしの言葉を待っていてくれている。

そんな彼に少しだけ胸が痛みながらも、とつとつと、わたしは話し始めた。



「……宇野さん、他に、すきな人がいるらしいの。だから、わたしとは別れたいって」

「………」

「それから、……実は来月から、宇野さんの九州支社への転勤が決まったんだって。だからこのタイミングで、話したんだと思う」



嘘は、ついていない。ところどころ、隠していることはあるけれど。

ちらりと伊瀬の方に目を向けると、彼は静かに、怒っているようだった。
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