キミとの距離は1センチ
思わず、「伊瀬、」と、その名前をつぶやく。



「……なんだよ、それ……結局おまえ、宇野さんに振り回されただけじゃねぇかよ」

「………」

「じゃあ、なんで宇野さんは、佐久真と付き合ったんだよ。すきなヤツがいるなら、そっちに行けばいいだろ」



鋭い彼の雰囲気に若干押されながら、わたしはなんとか考えて、言葉をしぼり出す。



「……そのすきな人の方に行けない、事情があったんだよ。……その相手の人、九州支社にいるんだって。だから……」

「なに、だから、手近なとこで佐久真と付き合って、今度は自分の転勤が決まったら、簡単に捨てるのか? そんなの、勝手過ぎんだろ」



伊瀬は怒ってくれている。わたしのために。

でも、そこでわたしは、うつむいた。



《そうかな。きみも俺を、利用してたと思うよ》



……きっとわたしたちは、似た者同士、だったのだ。



「伊瀬、ありがたいけど、宇野さんのこと悪く言わないで」

「……なに?」

「わたしも、悪いところあったんだよ。だから、宇野さんのことばかり、責められないの」



言いながら、じわりと涙が浮かんだ。

今回は、とうとうそれが、決壊して。ぽろぽろ、しずくがこぼれ落ちる。
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