キミとの距離は1センチ
「佐久真……」

「ご、ごめんわたし、みっともない……っ今、止めるから、」



必死で目をこすって涙を止めようとするのに、後から後から溢れてきて止まらない。

情けない。みっともない。自分が無意識に誰かを傷つけていたことにすら、気付けなかったなんて。

宇野さんは、いい人だ。だから九州支社に行ったら、今度こそすきな人と、うまくいって欲しいと思う。

わたしは、どうしよう。どうしたらわたしは、もっとうまく、生きて行けるんだろう。


どうしたら、もっと、うまく──……。



「う……ひっく、ご、ごめ、伊瀬──、」



瞬間、顔を覆っていた手を外されて。

ふわりと、何かあたたかいものがくちびるに触れた。



「……え……」



わたしは自分が泣いていたことも忘れて、呆然と目の前の人物を見つめる。

わたしの両手首を掴んだまま、再び伊瀬が、顔を近付けてきた。



「……んっ、」



ようやく我に返って拘束された手を動かそうとしたけれど、びくともしない。

それどころかさらに彼は、重ねたくちびるを深くした。
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