キミとの距離は1センチ
──キスは、すきな人とするもの。

そんなの、小学生だって知っていることだ。


……じゃあ、どうして。

どうして今伊瀬は、わたしにキスしてるの?



「……んっ、や……い、せ……っ」



渾身の力を込めて掴まれた手を振りほどき、目の前にある伊瀬のからだを押し返す。

呆然と見上げた先の彼は、今までに見たことがないくらい、薄く冷たい笑みを浮かべていた。



「な、なんで、伊瀬……」

「──ちょうどいいや。俺も最近、振られたばかりなんだ」

「え?」



思いがけないその言葉に、目を見開く。

俺も振られた、って……やっぱり伊瀬、すきな人、いたの?

けど、『振られた』?



「いいじゃん、傷の舐め合い。俺もちょうど、溜まってたし」

「な……なに、言って……」



じりじりと近付いてくる彼から逃げるように、後ずさろうとする。

けれども簡単に、手首を掴まれて。ぐいっと、彼の方に引き寄せられた。

わたしを見下ろすその顔に、いつもの“頼りになる同期”の表情は、ない。



「……安心しろよ、」



──ああ、どうして。

どうして、こんなことに。



「ちゃんと、気持ち良くしてやるから」



わたしが次の言葉を紡ぐ前に、両頬を挟まれて。

そのまま降ってきたくちびるに、抵抗する暇すら、与えられなかった。
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