キミとの距離は1センチ
伊瀬が、わたしの肌に触れている。これは、同期の距離じゃない。


もう、ぐちゃぐちゃだ、何もかも。



「……いせ、」



ラグにおさえつけられた手首が痛い。

心がおいてけぼりのまま進んでいく行為の中、彼を呼んだ声は、思った以上に弱々しく響いた。

もうわたしは、ほとんど生まれたままの姿で。だけど彼自身は、いまだきっちり衣服を身につけていた。

わたしの胸に埋めていた顔を上げて、伊瀬が嘲笑する。



「は、……こうしてると、身長の違いなんてたいした問題じゃないな」

「……ッ、」



瞬きをした拍子に、また両目から、溜まっていたしずくがこぼれた。


──なんで。どうして。

わたしたちは、職場の同期だ。それ以上でも、それ以下でもない。

こんなの、違うのに。


戸惑いと、悲しみ。そして与えられる快楽のせいでぽろぽろと涙をこぼすわたしを見下ろし、伊瀬が困ったように首をかしげた。



「……泣くな、佐久真」



そう言って何かを堪えるように眉を寄せて、わたしのひたいにくちびるを落とす。

今わたしを泣かせているのは、彼自身だ。なのにどうして、そんなことを言うんだろう。


けど、──ああ。こんなときでも伊瀬は、わたしを名前では呼ばないんだな。

それは彼が、あくまで理性的だからか。それともやっぱり、この行為に気持ちなんてないからかな。
< 137 / 243 >

この作品をシェア

pagetop