キミとの距離は1センチ
ちょうどすぐ目の前にある、伊瀬くんの顔。

黒縁メガネで、わかりにくかったけど……近くで見ると伊瀬くん、すごく整った顔してる。

目元が涼しげで、なんか、和服が似合いそう……。



「ッ、」



そんなことを考えていたら、パチ、と、目が合った。

固まるわたしを見下ろして、伊瀬くんがほのかに口の端を持ち上げる。



「……よかったね」

「え、」

「俺が偶然、佐久真さんのこと見つけて」

「──、」



とたん、わたしは急に恥ずかしくなってしまって、かあっと頬に熱が集まるのを感じた。

貧血起こしたはずなのに、今わたし、顔真っ赤な気がする……!


だって、男の人にお姫さまだっこされるなんてこと、初めてで。

今だけは、自分が憧れている、小さくてかわいい女の子になったような……そんな錯覚を、してしまったんだ。



「……あ、あの……」

「ん?」



伊瀬くんはいちいち、わたしと会話をするとき視線を合わせてくれる。

彼の腕の中で精一杯恐縮しながら、きゅっと、そのワイシャツの胸元を控えめに掴んだ。



「あり、……ありがとう、伊瀬くん……」



ちゃんと届いたかわからないくらいの、めちゃくちゃ小さなお礼の言葉。

それでも伊瀬くんは、ふっと口元に笑みを浮かべた。



「……どういたしまして」





──これが、わたしと彼の、ファーストコンタクト。

22歳の、春のことだった。


◇ ◇ ◇

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