キミとの距離は1センチ
「仕方ないな。どっかに脚立あるはずだから、発掘して──」



そう呟いた伊瀬の声が、一瞬、遠くなった。

わたしの手がぶつかった棚から、なんだか固そうな缶の入れ物や黄ばんだ模造紙たちが、降ってくるのが見える。


──あ、やばい。

真上を見上げながらそう思った瞬間、怒鳴るように名前を呼ばれて、からだを引っ張られて。

少し遅れて音が戻った世界に、バサバサッと、激しい物音が響く。



「……び、びっくりした……」



どくどくと、心臓がいつもよりはやく脈打っている。

わたしは気付けば、後ろで座り込む伊瀬に抱きかかえられるように、床に尻餅をついていた。

はあっと大きく息を吐いて、それから、後ろを振り向く。



「ごめん、伊瀬。ありが……」

「っの、馬鹿!! 無鉄砲もたいがいにしろよ!!」

「え、」



キーン、と耳に響く大声に、わたしは伊瀬の顔を見上げたまま目が点になった。

あまり見たことのない怒りの表情で、彼はそんなわたしを見下ろしている。
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