キミとの距離は1センチ
「おまえは俺の心臓を止める気か! 1センチの身長差で、届く位置がそうそう変わるわけないだろ!!」

「ふぇ、ご、ごめん、なさい……」



迫力負けしながら、それでもたどたどしく謝罪を口にする。

そんなわたしを見た伊瀬が、ちょっとだけ正気になったように表情を変えて。

そのまま、立ち上がった。



「……わかればいい。片付けるぞ」

「あ、うん……」



伊瀬にならって、わたしも服についた埃を払いながら腰をあげる。

少しだけ微妙な雰囲気のまま、散らかしてしまったものをなんとか片付けて。

俺こっちだから、とマーケティング部のオフィスとは反対側を指さした伊瀬と、やっぱり少しだけ微妙な雰囲気のまま物品庫の前で別れた。

その後ろ姿が角を曲がったのを見送って。わたしはトン、と、横にあった壁に背中をつけた。



「……やっちゃった……」



小さな小さな呟きは誰にも聞かれることなく、空気に溶けて消える。

……伊瀬、本気で怒ってたよね。よかれと思ってしたことで、迷惑、かけちゃった。


つい潤みそうになる涙腺を、ぐっと堪える。

壁にひたいをつけて、ひとしきり落ち込んで。

そうしてわたしは、がばりと顔をあげた。


……うじうじしてたって、仕方ないよね。

次、がんばろう。うん、がんばる!


会社の廊下で百面相をする自分へ不審げに向けられる、通りすがりの社員たちの視線にまったく気付きもせず。

わたしはこっそり両手で小さくガッツポーズをして、オフィスに向かって歩き出した。
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