キミとの距離は1センチ
+゚:9/ 告白
+゚:9
《……ちゃんとわたし、わかってたよ。伊瀬がわたしのこと、“そういう対象”で見てないことくらい。だって、嫌だもんね? 自分より、背が高い女なんて》
そんなふうに、冷たい口調で話すくせに。
それでも無理やり振り向かせた彼女の顔は、ひどく、傷ついた表情をしていて。
《……佐久真、》
彼女のそんな表情を見た瞬間、俺の中に沸き上がったのは──最低なことに、満足感と優越感。
……佐久真のこと、そういうふうに見たことない、なんて。
先輩たちにからかわれたとき、あんな言い方しかできなかった自分を、責めて責めて責めて。
だけど、同時に……俺の言葉で傷ついた顔をしている佐久真が、愛しくて愛しくて愛しくて。
強引に重ねたくちびるは、あの日と変わらず、まるで麻薬のように俺を狂わせた。
ただひとつだけ違ったのは、目の前にいる彼女から、雨の匂いがしないこと。
《は、……こうしてると、身長の違いなんてたいした問題じゃないな》
──あの、雨の日。どうせ叶わない想いなら、めちゃくちゃになってしまえばいいと思った。
だけど結局、俺は心のどこかで、高をくくっていたのだ。
……佐久真は絶対に、俺のことを、嫌いにならないって。