キミとの距離は1センチ
「……ふぅ」



達成感から思わず出たため息で、自分がずいぶん長い時間パソコンと睨めっこしていたことに気付く。

自前の卓上時計を確認してみると、時刻は19時前を示していた。


右斜め前の席を盗み見ても、そこは数時間前から変わらず空っぽのまま。たぶん、彼はあの物品庫からその足で会議にでも向かったのだろう。

定時をしばらく過ぎて、オフィスはちらほら空席が目立つ。左隣りのさなえちゃんのデスクも、2時間近く前から綺麗に片付いていた。

派遣社員の彼女は、正社員とは違いいつもきっかり定時で帰ることができる。

手伝います、とは毎回申し出てくれるけれど、そこはわたしひとりが甘えてはいけないところだ。


たった今出来上がったばかりの企画書に【『和み姫』営業戦略案】とタイトルをつけて、保存する。

『和み姫(なごみひめ)』は、ブルーバードの主力商品のひとつである緑茶飲料だ。

数年前の発売当初から爆発的にヒットした『和み姫』は、今や他社の緑茶飲料からは頭ひとつ飛び出た売り上げを誇っている。

人気商品だけに、その販売戦略にも一層力を入れていて。ここ数ヶ月テレビ等で流れているCMには最近人気上昇中の清純系女優を起用し、話題性にも事欠かない。
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