キミとの距離は1センチ
からだを震わせながら絶え間なく涙をこぼすその目元を、何度も、拭った。


……泣くな、佐久真。

アイツのことを想って、泣くなよ。



《いいよ、今──……何も考えられないように、してやる》



すべてが終わった後、ぐったりとベッドに沈む彼女の頬を撫でながら、俺は激しい後悔に襲われていた。

もう、戻れない。最低なことを、してしまったと。


ただ、それでも……俺はどこかで自虐にも似た、安心感を持っていたんだと思う。

俺のことを、なんとも思っていないからこそ。……佐久真は、こんなことじゃ、俺に対する認識を変えたりしないって。

アイツは最初から、俺のことを男としてカウントしていないのだから。だから彼女はきっと、今まで通りの“同期の伊瀬”を求めて、今後も普通に接してくるだろうって。


最低で、打算的で、自分勝手な、行為。

傷の舐め合い、なんて。そんな建前を嘯きながら、結局俺は、我慢できなかっただけなのだ。

俺の部屋にいて、俺の貸した服を着て。それでも他の男のことを想って泣く佐久真の姿に、理性が耐えられなかった。
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