キミとの距離は1センチ
「珠綺さんっ、大丈夫ですか……!?」

「いたた……」



痛そうにうめきながら、佐久真は片手で後頭部をおさえている。

それでも意識がしっかりしているらしいことには、ひとまずホッとして。

おろおろと佐久真のしゃがみこんだ木下さんにならい、俺も傍らに膝をつけた。



「……大丈夫か? 佐久真」



俺の言葉に反応して、びくりと彼女は肩を震わせた。

一瞬躊躇ったような間の後、目は合わせずにただひとこと、「……へーき」と小さくつぶやく。

まわりにいる社員や通行人たちも、何事かとこちらの様子をうかがっているようだ。

不安げな表情のまま、木下さんが佐久真の靴を拾って手渡した。



「珠綺さん、本当に何ともないですか? さっき頭、打ってたみたいですけど……」

「ほんとか?」



木下さんの言葉を受けてすぐに訊ねてみるも、相変わらず佐久真は、頑として俺と視線を合わせようとはしなくて。



「……だいじょうぶ、だから。気にしないで、伊瀬は行ってよ」

「………」



その瞬間、俺の中のどこかで、不穏な感情が首をもたげた。

今まで自分の内側に抑え込んでいた不満や悲しみややるせなさが、みるみるうちに膨らんでいく。
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