キミとの距離は1センチ
……なんだ、それ。

いくら俺のことが嫌いだからって、心配も、させてもらえないのかよ。

身長が1センチしか変わらない分、ほとんど同じ高さに顔があるのに。こんなときにも、交わらない視線。

少し前までは、あんなに近く、感じていたのに。



「……ああ、そう」



内心の荒ぶった気持ちを必死で抑えつけ、いたって素っ気ない声音で言い放つ。

拾い上げた佐久真のバッグを握りしめる木下さんが、どこか心配そうに俺たちのことを見つめていた。

そのまま俺は、立ち上がろうとして。だけどふと、いまだ床に座り込んだままの、佐久真の手元に目がいった。



「──、」



灰色の、硬いアスファルトの上。

肌の色が白くなるくらい強く握りしめられている彼女の両手が、小さく震えていることに気がついて。



「(……ああもう、)」



俺もまたぐっと、膝の上に置いた自分のこぶしを握りしめた。
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