キミとの距離は1センチ
わたしは現在その『和み姫』の営業戦略を担当している、けど。現状は、サブのそのまたサブみたいな位置づけだ。

もちろんアイデアさえあれば、先輩たちを押し退けてどんどん売り込んでいっていいんだけど……悲しいかな、今のわたしにそこまでのマーケティングセンスはない。


お客様が、どんな飲み物を飲みたいか?

どんな飲み物があれば、食生活がもっと充実するか?


一見単純なようで実はとても奥深く複雑な“マーケティング部門”は、毎日勉強させられることばかりだ。


パソコンのバックアップアイコンをダブルクリックして、椅子に座ったままうーんと伸びをする。

デスク上に置いていた水筒やスマホを通勤用のかばんの中に突っ込んで、わたしは立ち上がった。



「それじゃあ、お先に失礼します」

「はーい、お疲れさま~」



まだ仕事を続ける同僚たちに声をかけて、オフィスを出た。

この身長があるから、あまりヒールが高い靴は履かないようにしている。コツコツとパンプスを鳴らしながら、エレベーターを目指した。


……おなかすいたなあ。今日はごはん、どうしよう。

たしか卵の賞味期限近かったから、オムライスでも作ろうかな。

そんなことを考えながら、廊下の角を曲がる、と。
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