キミとの距離は1センチ
都のその質問に、わたしは答えられない。

……だってあれは、完全にわたしと伊瀬、ふたりだけの間に起こった事故なわけで。

あの話を他の人にするのは、……いくら相手が都でも、さすがにはばかれる。

きっと伊瀬も、誰にも話してないだろうし。……というかわたしが、恥ずかしいし。

今だって、あのときのことを思い出すと……胸が痛くなるのと同時に、恥ずかしくて恥ずかしくて、顔を覆いたくなるんだもん。


わたしが押し黙っていると、都はふう、と小さく息をついた。



「……ま、別に言いたくないんなら、いいけどね」



そう言って肩をすくめる都は、なんだかんだで、やさしい人なのだ。

いつもまわりの空気を読んで、こんなふうに本人がしたくない話だと感じたら、無理強いはしないでくれる。

都のそういうところに、わたしはしょっちゅう助けられてるんだ。



「……ごめん、都」

「別に。謝るようなことないでしょ」



仕方ないなあ、という表情で笑う彼女に、わたしも自然と笑みを返した。

と、そこでわたしは、はたと気がつく。
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