キミとの距離は1センチ
「……あ」

「あ、……伊瀬」



角を曲がった先で鉢合わせたのは、数時間ぶりに見る顔だ。

とっさにお互い立ち止まったけれど、さっきのことがあるから、なんだかちょっとだけ気まずい。

まっすぐ顔を見れずにさまよわせた視線が、伊瀬の手に握られたビニール袋に気が付いた。



「……コンビニ?」

「ああ、うん。まだ帰れなさそうだから、夜食」

「そっか……」



伊瀬は今、他の部署の人たちとも連携して、新しい炭酸飲料の開発プロジェクトに携わっている。

つい先ほどまでオフィスにいなかったのも、おそらくはその新商品関連の会議か何かだったのだろう。


いつもと変わらないようで、だけどちょっぴり疲れたように見える彼と、わたしはようやく目を合わせた。



「こん詰めすぎないようにね。何かできることあったら、わたしも手伝うから」

「……さんきゅ」



つぶやいて、伊瀬が小さく笑みを浮かべたから、わたしもつられて微笑む。

普段は憎まれ口ばっかりだけど、やっぱり、伊瀬が笑うとうれしいのだ。彼は、大事な同期だから。

そしてふたりの間の空気が良くなったこの隙に、チャンスとばかりに口を開いた。



「あの。さっきは、ほんとにごめん」

「………」

「わたしってほんと、大雑把で考えナシのとこあるからさ。伊瀬がいてくれて、助かったよ」
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