キミとの距離は1センチ
「木下さん、俺は──、」

「……わかってます」



ぽつりとつぶやいた私の言葉に、伊瀬さんが押し黙る。

今度は私が、困り顔で笑みを浮かべる番だ。



「ちゃんと、わかってます。……伊瀬さんが、珠綺さんのことしか、見てないって」

「……ごめん」

「謝らないでください。私だって、珠綺さんのことが大好きです。伊瀬さんが惹かれるのも、納得できます」



溢れそうになる涙をこらえて、まっすぐに伊瀬さんを見つめる。

精一杯の、笑顔で。



「それに、伊瀬さんは……私の気持ちに、気付いていたのに。冷たくしたりしないで、普通に接してくれていました。……それが、すごくうれしかった」

「………」

「伊瀬さんと珠綺さんがうまくいくように、私も願ってます。大好きな、ふたりですから」

「……ありがとう、木下さん」



言いながら、ふわりと、笑う。

だけどきっとこの微笑みは、私に向けられてるものじゃない。

きっとそれは、珠綺さんのことを、想って──。


ふと、そこで伊瀬さんが、視線を床に落とす。



「……だけど、どうかな。佐久真は俺のこと、何とも思ってないから」

「ッ、そんなこと……! おふたりのこと見てたら、お互い大事に想ってるんだなあって、わかりますよ……!」

「……そうかな」



口角を上げてはいるけれど、そうつぶやいた彼は、どこか悲しげだ。

……やっぱり最近、ふたりの間に、何かあったのだろう。

だけどそれはきっと、私なんかが、口を挟んでいいことじゃない。
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