キミとの距離は1センチ
その背中を見送ってから、改めて伊瀬へと視線を戻した。
「ごめん伊瀬、話途中だったよね。なに?」
バッグを肩にかけ直しながらのその問いに、伊瀬がふいっと、こちらから顔を背ける。
「……いや。なんでもない」
「……そう?」
「ああ。──それじゃ、お疲れ」
「……お疲れさま」
もう話は終わりとばかりに、伊瀬がお決まりの言葉を放つから。わたしはそれ以上追求もできずに、同じせりふを返した。
お互いが歩きだして、すれ違った瞬間。
今日、備品室での思いがけない接近のときにも感じた伊瀬のにおいがふと鼻をくすぐって、思わず振り返った。
「………」
彼は、まっすぐに背筋を伸ばしてマーケティング部のオフィスへと歩いていく。
伊瀬らしくない、先ほどの歯切れの悪い様子が気になって、なんだか胸の中がもやもやした。
《……あのさ、さく──、》
……伊瀬はあのとき、何を言おうとしていたんだろう。
そうは思うけれど宇野さんとの約束があるから、いつまでもここでぐずぐずしてられない。
釈然としないながらも、わたしは視線を外して。
彼とは反対方向へ、踵を返した。
「ごめん伊瀬、話途中だったよね。なに?」
バッグを肩にかけ直しながらのその問いに、伊瀬がふいっと、こちらから顔を背ける。
「……いや。なんでもない」
「……そう?」
「ああ。──それじゃ、お疲れ」
「……お疲れさま」
もう話は終わりとばかりに、伊瀬がお決まりの言葉を放つから。わたしはそれ以上追求もできずに、同じせりふを返した。
お互いが歩きだして、すれ違った瞬間。
今日、備品室での思いがけない接近のときにも感じた伊瀬のにおいがふと鼻をくすぐって、思わず振り返った。
「………」
彼は、まっすぐに背筋を伸ばしてマーケティング部のオフィスへと歩いていく。
伊瀬らしくない、先ほどの歯切れの悪い様子が気になって、なんだか胸の中がもやもやした。
《……あのさ、さく──、》
……伊瀬はあのとき、何を言おうとしていたんだろう。
そうは思うけれど宇野さんとの約束があるから、いつまでもここでぐずぐずしてられない。
釈然としないながらも、わたしは視線を外して。
彼とは反対方向へ、踵を返した。