キミとの距離は1センチ
彼がいる踊り場の数段下で、立ち止まる。


……もう、駄目かもしれない。もう、遅いのかもしれない。

だけど、今。

伊瀬がそうしてくれたように、わたしも彼に、ちゃんと自分の気持ちを伝えたい。



「……どうしたら……」

「え?」

「どうしたら、伊瀬に手が届くんだろうって、ずっと思ってたの」



彼は口を真一文字に結んで、だけどその瞳は、戸惑いに揺れている。

そんな伊瀬を見上げて、わたしは小さく微笑んだ。



「だって伊瀬は仕事ができて、いつだってかっこよくて……わたしなんかじゃ、全然、追いつけなくて」

「………」

「たぶんわたし、そんな伊瀬にいつも憧れて……ちょっとだけ、嫉妬もしてたんだと思う」



ぽつり、ぽつりとこぼれるようなわたしの告白を、伊瀬は黙って聞いてくれている。

もう1段だけ、わたしは彼に近付いた。



「伊瀬に『ずっとすきだった』って、言ってもらえて……わたし、素直にうれしかったんだよ」

「……佐久真、」

「でも、わたし……きっと、まわりの人たちが思っているような、強い人間じゃないから。だから、伊瀬にそう言ってもらえても、自分に自信が持てなかった」
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